早稲田大学 医療レギュラトリーサイエンス研究所

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レギュラトリーサイエンスコラム 思いやりと忠恕-(1)

2017年2月6日

コラム-1:思いやりと忠恕(1)

私が内山充先生を、レギュラトリーサイエンスの師と仰いだのは2009年である。東京女子医科大学・早稲田大学共同大学院でレギュラトリーサイエンスの教鞭をとる事になった時である。66歳での自称弟子入りであるが、その理由は今後追々思いをこめて書いていきたい。まず、“思いやり”と“評価”の教えである。

私の2013年6月早稲田大学(理工学術院先端生命医科学専攻)退任時の最終講義「21世紀における“医療レギュラトリーサイエンス”への提言と展開」の時に、療養中の先生からメッセージをいただいた。その短い文章の中に、先生の提唱されたレギュラトリーサイエンスの本質が凝縮されている。それはレギュラトリーサイエンス研究の方向性を示し、私を勇気づけるものである。その全文を紹介する。

「本日は笠貫宏先生の最終講義にご挨拶をお願いされておりましたが、体調を崩し、出席できず大変残念です。私が25年前、提唱致しました“レギュラトリーサイエンス”の概念のキーワードは評価です。評価によって世の中の全ての動きが決まり、かつ左右されます。従って、適正な評価が今後の文明社会においては必須であり、新しい科学として活用されなければならないと思います。それを科学として体系付けようとしている笠貫先生の考えには私は全面的に賛同し、敬服致します。私がこれまでに考えて参りました評価の根底をなす基本的な心構えは人への思いやりだと思います。“評論とか評価を適切に行うためには、対象物と向かい合ってはいけない。対象物そのものにならなければならない。”と、かの高名な小林秀雄先生が言われています。適正な評価をするためには、まず、相手に向き合うのではなく、相手の立場になって、考え、理解することです。そして、相手が人として大切なものを得ることが出来るために、最善の選択と判断をすることが、真の適正な評価です。相手の立場で理解することが、私は“思いやり”だと思います。従って、新しい科学としてのレギュラトリーサイエンス、すなわち評価科学はその根底に“思いやり”という精神が大切です。医療というのはまさに思いやりと評価ではないかと思います。従って、笠貫先生が考えているレギュラトリーサイエンスの体系化の方向は私にとっても大変満足し、いつも嬉しく拝見しております。医療の現場を基盤として、患者様のためのレギュラトリーサイエンスとして花咲かそうとしておられることを大変感謝しております。」

先生は
「レギュラトリーサイエンスの基盤は“評価”にあり、その基盤は“思いやり”にある」
と説かれる。

次回は“思いやり”から私の座右の銘である“忠恕”へと展開する。(K)