早稲田大学 医療レギュラトリーサイエンス研究所

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所長挨拶

 レギュラトリーサイエンスは、1987年に故内山充先生(前国立衛生試験所副所長)によって提唱された概念で、「科学技術の成果を人・社会に真に役立つことを目的とし、科学技術の成果を予測・評価・判断し、人と社会と調和の上で最も望ましい姿に調整する科学」です。実践面では規制政策に科学的根拠を与える“行政科学(適正規制科学)”と、研究面では既存の基礎科学・応用科学と異なる価値尺度と科学的根拠をもとに適正に評価する“評価科学(Whichの科学)”からなり、最も望ましい姿こそが最も尊い価値基準としたことは極めて先見性の高い、独自性の高い、世界に先駆ける概念です。21世紀の科学技術の進歩と価値観が多様化する人・社会における科学論争の解決に不可欠な科学です。
科学技術立国を目指す我が国は、2011年第4期科学技術基本計画において、内山氏の概念を国の定義とするレギュラトリーサイエンスの強化を謳っています。医学医療領域における先進的医薬品、医療機器、再生医療等製品の研究開発促進と迅速かつ安全な社会実装のためにも基盤となる科学です。
早稲田大学では、東京女子医科大学とレギュラトリーサイエンスに関する博士課程の共同大学院を2010年に開設し、2012年には、早稲田大学の文理融合実践科学の拠点、そして、行政、産業界との連携拠点の役割を果たすカデミアの拠点として、医療レギュラトリーサイエンス研究所が設立されました。当研究所では、レギュラトリーサイエンスを、医療に関わる先端科学技術が人・社会へ真の利益をもたらすための倫理学を基盤とする予測科学・評価科学・判断・意思決定科学からなる学問として捉えています。ベネフィット・リスク・コストの評価、さらに社会と関連する諸問題を科学的根拠に基づいて解決するために自然科学と人文社会科学を融合・統合する学問領域であり、Multi-、Inter-, Trans-disciplinaryな研究アプローチが必要となります。
本研究所は、医学・工学・薬学・法学・経済学・倫理学・商学・社会科学の15名の研究所員とアカデミア・臨床病院・医療関連企業・国立研究所・行政・スタートアップ等の59名の招聘研究員から構成されます。これまで、医薬品・医療機器・再生医療等製品の規制、非臨床・臨床試験と評価法、実臨床での治療機器の適正使用など研究プロジェクトにより、医薬品、医療機器、再生医療等製品の評価科学としてのレギュラトリーサイエンスの研究を進めてきました。
特に、我が国のクラスIV治療機器の国内企業競争力、国内企業シェア、世界市場シェアは極めて低い現状を踏まえて、本研究所では、First in Classの新治療機器の研究開発を効率的に加速させるために、私が提唱した「ヒト病態を模した試験機器の研究開発と評価方法の開発、それらに基づく評価基準の策定「HuPaSS(呼称: ヒューパス) (Human Pathological Simulator and System)」という概念を実践するプロジェクトを強力に促進し、多くの成果をあげてきました。
また、2021年7月に「パンデミック宣言下における緊急時の医薬品等使用許可・承認制度に関する研究会」を立ち上げ、早稲田大学内外の15名の有識者が集い、全9回の研究会を議論をまとめ、日本における今後のあるべき制度設計に向けて行政へ提言を行いました。
研究所員一同、医工協働、産学協働、そして、行政との協働を通じて、世界の未来をより良くする医療レギュラトリーサイエンス研究の推進と社会実装に取り組んでまいります。

医療レギュラトリーサイエンス研究所 所長
理工学術院 教授
岩﨑 清隆