Rail DiMeC 研究会の紹介 🌐English
研究活動:
Rail DiMeC研究会の世話人代表の早稲田大学名誉教授の梅津光生です。この度、この研究会が、医療レギュラトリーサイエンス研究所の研究部会の一つとして加わることとなりました。鉄道の災害医療への活用という社会貢献をレギュラトリーサイエンスの視点から推進してまいります。
1. はじめに
Rail DiMeC研究会の英文名は、Research group on utilization of railways for disaster medical careです。
私は、医療レギュラトリーサイエンス研究所の初代所長で、定年退職後、この研究所の顧問となりました。現役時代、国立循環器病センター研究所の設立スタッフ、シドニー・セントビンセント病院でのオーストラリア人工心臓開発プロジェクトリーダーを経て、本学の医工連携の推進のコアメンバーとして、50年にわたり人工臓器の研究・評価開発に携わりました。また、定年前の15年間、稲門鉄研会長を務めており、鉄道への思いは強く、70歳で退職後、医療と鉄道を結び付けようと考え、この研究会を立ち上げました。
2. Rail DiMeC研究会の発足
たまたま、私が所属する一社)スターリサーチャーの兵庫県での講演会で、災害医療支援に鉄道が活用できないか、という話題を提供しました。その時、複数の災害医療専門医から「ぜひ一緒に活動したい」という希望がだされました。そして2023年5月に開催された日本生体医工学会の総会で、私の友人で一社)スターリサーチャー代表の生田幸士東京大学名誉教授から「防災医工学」という新たな専門別研究会を提案し、承認していただきました。そこでは、災害医療関係者、大学関係者、医療機器・鉄道車両や自動車メーカー、倉庫業者、物流事業者、鉄道事業者などの異分野の方々にもご協力いただき、まさに連携チームの活動が活発になってまいりました。この活動を今まで1年半にわたりサポートいただいてきた本研究所のメンバーは、岩﨑清隆所長、宮田俊男教授、松浦由佳博士、笠貫宏顧問、そして、この機会に招聘研究員になっていただいた小峰輝男氏です。彼は、早稲田大学機械工学科の卒業生で、新幹線のぞみ300系の開発に中心的にかかわった鉄道技術者です。今になって、人の繋がりの神秘さと重要さを痛感しています。
3. 大規模災害発生時に鉄道の価値はどこにあるのか
今まで、大地震など大規模災害発生時の被災者の搬送は、空路はドクターヘリや自衛隊の輸送機、陸路は救急車や自衛隊車両によって行われ、鉄道の活用はほとんど考えられていませんでした。被災地からの報道は、倒壊した建物や脱線した電車などのセンセーショナルな映像が紹介されますが、Rail DiMaC研究会は被災していないぎりぎりのところまで、翌日には鉄道が再開されている事実に着目しました。そこで、図1のような鉄道を活用した医療搬送の基本構想を考えました。図の右が被災地、左が非被災地で、その境界に、赤で示したような、臨時の医療搬送拠点駅を指定します。莫大なニーズの災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team,略称DMAT)を迅速に組織的に被災地に送ることや、被災地の傷病者を安全に非被災地へ運び出すことは、この臨時拠点を作ることで、より多くの災害弱者を救済し、未治療被災者を減らすことが可能になると考えました。
4. 地下鉄を用いた実証実験の実施(2023年秋)
2023年11月に神戸市営地下鉄の協力を得てDMATの近畿ブロック訓練の一つとして、初めて鉄道を使う訓練が計画され、神戸市交通局海岸線5000形(4両編成)の地下鉄の2~4号車で、DMAT4隊、模擬患者30名を動員して行われた。一方、1号車では、Rail DiMeC研究会のメンバーを中心に、エンジニア、医療スタッフ、医療機器会社のメンバー合計18名がこの実験に参加しました。海岸線の御崎車両基地内において、1号車に簡易手術台や医療機器を搬入、設置した際の記録写真を図2に示します。
そして、臨時電車を海岸線の本線を2往復し、その間に曲率のきつい線路通過時や、速度の大きく変化する条件下での加速度、振動や騒音などを計測し、列車走行中の車内環境が医療行為や医療機器動作にどのような影響を及ぼすのかに関する基礎データを取得しました。その結果、同乗の外科医が、比較的軽い患者の搬送中の外科処置は可能であると判断し、搭載した医療機器も問題なく稼働できることを確認しました。
5. 救急車両をコンテナ貨物列車に積載する基礎実験(2024年夏)
2024年9月下旬に、政府(内閣府)が首都直下型大地震の大規模災害を想定した全国規模の訓練を計画していました。そこで、DMATからの要望として、その訓練の中に、鉄道を使って複数の救急車両を長距離輸送する計画を組み入れていただきました。Rail DiMeC研究会は、JR貨物、日本通運に協力いただき、救急車両を関西から関東へコンテナに乗せて運搬するというわが国初の試みを計画しました。しかし、一般の救急車は車高が高いので、JR有蓋(屋根付き)汎用コンテナには収まりません。また、車幅が通常の救急車より広いドクター・カーもありました。そこで、2024年8月2日、通常JR貨物では取り扱わない海上輸送用のオープントップコンテナを、神戸埠頭で調達、そこから百済貨物ターミナル駅まで運びました。一方、ドクター・カーには車高が低く、JRに積載する汎用コンテナに収まる車両もありますので、それを対象に、9月4日に、JR.貨物に、屋根付の20フィート汎用コンテナを用意いただきました。そこで、実際に救急車両を搭載時にどこに問題があるのかを調べるため、5種類の救急車両を2回に分けて、百済ターミナル駅まで持ってきていただき、どのように固定すれば安全に輸送できそうかを十分に検討しました。その時の基礎実験の写真が図3です。
6. 複数車種の救急車両をコンテナ貨物列車で長距離輸送する実験(2024年秋)
2024年9月28日、首都直下型地震を想定した、内閣府主導の大規模訓練が計画され、関西から参加する以下の5施設の病院のDMAT隊が救急車輛を貨物輸送する企画に参加してくれました。その5施設は、兵庫県災害医療センター、神戸大学医学部付属病院、兵庫医科大学病院、神戸市立医療センター中央市民病院、国立病院機構大阪医療センターです。それと、片道だけですが、関西地区で活動していたDMAT東京本部事務局のドクター・カーも東京まで鉄道コンテナで運ぶこととなりました。それぞれの施設に所属する救急車両を、9月26日と27日に、百済貨物ターミナル駅と神戸貨物ターミナル駅に預けました。そのあと、DMAT隊員は新幹線で関東へ移動するので、狭い救急車内に長時間乗車することによる疲労がなく、相模貨物駅、又は、東京貨物ターミナル駅へ出向き、関西で預けた車両を受け取り、首都圏での訓練に参加しました。訓練に使用したドクター・カーは、再び相模貨物駅に預けて、隊員は関西に新幹線で戻りました。そして、首都圏の訓練に参加したそれぞれの救急車両は9月30日までに無事に元の職場に戻りました。 図4、図5は、首都圏訓練に参加した際の、救急車両の積み込みの記録写真です。
7. おわりに
Rail DiMeC研究会は、「鉄道の災害医療への活用(病院列車構想)」の活動により、国土交通省の2024年度日本鉄道賞特別賞をいただきました。大変光栄に思うとともに責任を強く感じます。この活動の推進には、官公庁や地方自治体、医療関係者や鉄道事業者など関係各位との連携が不可欠です。今後も社会実装に向けて前向きに活動に取り組みますので、皆様方のご支援、ご協力をお願い申し上げます。